東国の熱量を届ける

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インタビュー

地元の「何もない」を誇りに変える。
菓子問屋・丸恭が挑むメーカー事業と
地域未来へのバトン

平山 善典さん

有限会社丸恭 
代表取締役社長

千葉県香取市小見川で1948年に創業し、半世紀以上にわたり菓子の卸売事業を営んできた有限会社丸恭。代表取締役の平山善典さんは、東京圏での武者修行時代に培ったノウハウと川上から川下まで見渡す独自の視点を武器に、自社ブランドのおせんべいや干し芋『干しの屋(ほしのや)』などのメーカー事業を展開している。「地元の農産物を誇りに変え、自慢できる会社を作る」と語る平山さんの原体験と、地域産業の未来を描く経営哲学に迫る。


地元から松戸へ武者修行。
大手提案で知った「ファブレス」の面白さと商売の原点

――早速ですが、平山さんの生い立ちや幼少期の思い出から教えてください。

平山 善典さん(以下、敬称略)
生まれも育ちも小見川で、幼少期は現在の休憩室や加工所になっている場所で過ごしていました。20歳までは地元を離れず、友人たちと毎日のように遊び回る活発な子どもでしたね。高校時代は地元のカラオケ店で2年間アルバイトをし、社会勉強をしながら、自分で稼いだお金で友人たちと出かけるのが本当に楽しかったです。

――身近に商売がある環境で育ち、当時から商売に対する親しみがあったのでしょうか?
我が家は1948年にシベリアから復員した祖父が創業し、駄菓子屋からスタートして卸センターへと発展してきました。父は放任主義で「好きなことをやれ」というスタンスでしたね。小学生の頃には友人とカードダスの売り買いをしてみたり、中学時代にヤフーオークションで商売の楽しさを体験した時も父は面白がってくれました。高校卒業後は大学に進学したものの通学が大変で中退し、中古車店などに勤めましたが当時はまだ将来の夢が定まっていませんでした。

――そこから20歳で松戸市の大手問屋へ武者修行に出られたのですね。
20歳の時、見かねた父から「武者修行に行ってこい」と言われ、父の知り合いの大手菓子問屋へ入社しました。松戸での一人暮らしは大きな覚悟が必要でしたね。最初は2年間、地方の事務を担当し、その後開発営業部へ配属されました。そこは「工場なきメーカー(ファブレス)※」として急成長している企業で、『イオン』や『無印良品』といった大手企業を相手に商品開発や提案営業を担当させてもらいました。原料調達から商品企画、製造、流通まで、商売の全体像を20代前半で学べたことは今も私の大きな財産です。
※ファブレス:自社で生産設備を持たず、外注先に製造を委託しているメーカーおよびビジネスモデル。

――貴重な経験を積まれたのですね。地元に戻られたきっかけは何だったのでしょうか?
25歳の時に妻との間に子どもを授かり、同時に父が胃がんを患ってしまったことです。「それなら地元へ帰ろう」と決意し、温かく送り出してくれた社長のもとを離れて香取へ戻ってきました。

父の急逝と覚悟の継承。
「問屋」の強みをテコに、
地場産さつまいもで挑むメーカーへの変身

――地元に戻られてから代表に就任されるまでの道のりはいかがでしたか?
帰郷後は母と共に父を支えていましたが、2015年に父が他界しました。当時30歳でしたが「自分が稼ぐしかない」「自分がこの会社をどうにかしなければ」と意識が一気に変わりましたね。そこからは必死で動き回り、周囲の方々や父が残してくれた徳に助けられながら会社を守ってきました。

――代表就任後、どのような改革に着手されたのでしょうか?
一番根っこにあったのは「社員が働きやすい環境を作る」ことです。本を読む中で「必要とされる会社とは何か」を考え、女性社員が重いジュース箱を手作業で積むような重労働を機械化・効率化する改善から始めました。社内の管理は母が支えてくれたため、私は攻めの営業に集中することができました。

――そして大きな転機となる自社ブランド『干しの屋(ほしのや)』の干し芋事業を立ち上げましたね。
問屋としての既存流通網を活かし、地元の名産であるさつまいもを使った自社商品を作ろうと考えたのがきっかけです。当時千葉県産の干し芋を扱う問屋は少なく、中小企業診断士の先生方からも背中を押されました。茨城の干し芋機械の業者さんへ見学に行き「これなら自分たちでも作れる」と確信を得て工場を設立しました。

――メーカー事業ならではの苦労もあったのではないでしょうか?
問屋と違って作らなければ物がなく、売れなければ在庫が溜まる厳しさを痛感しました。厳しい選別で残る規格外部位の売り先に悩みましたが、社内で新規事業の手を挙げてくれたベテラン社員や工場経験のある頼もしい地元人材(副工場長)、販路開拓で活躍している営業マンに恵まれ、道の駅や地元のコンビニエンスストアなどへ販路を広げることができました。『株式会社芝山農園』様をはじめとする地元農家さんの協力も不可欠でした。

地元の名産を全国へ届け、
社員も地域も誇れる会社へ

――現在の事業ラインナップと、メーカー事業の成果について教えてください。
現在は「千葉県産素材にこだわったおせんべい」「横浜から事業譲渡を受けた珍味部門」「さつまいもブランド・干しの屋」の3つが自社ブランドの柱です。売上の8割はNB商品の卸売業ですが、収益の約5割を自社メーカー事業が創出するまでに成長しました。

――メーカー事業を始めてよかったと感じる瞬間はどんな時ですか?
お客様からダイレクトに「美味しかったよ」と声をいただけることですね。また、自社商品を持ったことで大型展示会に出展できるようになり、大手一流企業とも直接商談ができるようになりました。地元にいると「大手には行けない」と縮こまりがちですが、武者修行の経験があったからこそ壁を作らず挑戦できています。

――香取の街にどのような未来を残していきたいですか?
地元の農産物を全国へ届けることで地域を活性化させたいです。「小見川にソフトバンクがあるような、地元で誰もが自慢できる誇りある会社」を作るのが私の夢です。北海道の猿払村のように、小見川に根を張りながら全員が豊かな収入を得られるような、活気あふれる地域経済圏を仲間と共に築いていきたいですね。

スキルよりも「ポジティブ」な心。
この街と会社を一緒に面白くする仲間を求めて


――『有限会社丸恭』ではどのような人と一緒に働きたいと考えていますか。

スキル以上に「この会社や小見川の街を一緒に良くしていこう」という前向きな気持ちを持っている方です。私の父も祖母も、病気や困難があっても心が縮こまらない超前向きな人たちでした。忙しい時期こそマイナスな感情に引きずられず、前を向いてポジティブに挑戦できる方と一緒に働きたいです。

――社内体制や地域での連携についてはいかがでしょうか?
現在社内管理の右腕としては70歳になる母が支えてくれていますが、今後は自社単独ではなく志を同じくする地元の事業者さんと連携し、地域全体を盛り上げる前向きなチームを作りたいと考えています。

――同じ地域で頑張る個人経営者や若手世代など、地元の小規模事業者の方々と今後連携していける可能性はいかがでしょうか?
大いに可能性がありますし、すでに手応えを感じています。例えば、『株式会社芝山農園』様からは良質なサツマイモを仕入れるだけでなく、できた干し芋をあちらの店舗で販売していただくといった非常に良い相乗効果が生まれています。また、『ちば香取のすぐれもの』といった地域イベントの場でも、私たちが問屋や審査員という立場で伺い、熱意ある作り手の事業者と出会う機会がありました。同じ地域で踏ん張る個人経営者や若い世代の皆さんとお互いに刺激し合い、手を取り合って地域全体を盛り上げていきたいですね。

繁忙期を支える家族との時間。
「香取には魅力がある」と胸を張れる未来をこの街で

――多忙な毎日だと思いますが、日常のリフレッシュや家族との時間はどう過ごしていますか?
日曜日は「家族の日」と決めて、絶対に仕事や用事を入れないようにしています。『干しの屋』の店舗も日曜日は定休日です。3人の子どもたちの成長を見守ったり、子どものサッカーの試合を観に行ったりするのが一番の息抜きですね。

――秋冬の繁忙期に向けた地道な作業も多いと聞きました。
秋冬は干し芋の出荷が最盛期を迎えます。また卸業では価格改定に伴う毎月200品以上の商品登録の作業などがあり、社員と一緒に地道に対応しています。

――最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。
「香取市には何もない」と思われがちですが、この街には思っている以上に素晴らしい魅力や企業がたくさんあります。そして「地元だから」と自分たちで限界を決めず、殻を破って全国、世界へ挑戦してほしい。挑戦すれば必ず新しい景色が見えてきます。ぜひ一緒にこの地域を盛り上げていきましょう!


平山善典氏について

有限会社丸恭 代表取締役社長。千葉県香取市小見川出身。自動車関連会社などを経て、20歳で千葉県松戸市の大手菓子問屋に入社。全国の卸問屋の受注対応から大手企業のPB商品開発などに携わり、商流全体を見渡すファブレス(工場なきメーカー)のノウハウを学ぶ。
2011年、父の病気を機に家業である有限会社丸恭に入社し帰郷。2016年に代表取締役に就任する。
先代の急逝という困難を乗り越え、既存の菓子飲料卸売業に加え、地元の農産物を活かしたメーカー事業の新規事業を推進。千葉県産素材にこだわった菓子開発や、さつまいもブランド『干しの屋』での干し芋製造などを立ち上げる。「地元の何もないを誇りに変える」を信条に、香取から全国へ食の魅力を発信し続けている。


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