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インタビュー

会社が残っても、地域がなければ意味がない
20年前のアンケートを胸に、拓き続ける経営者の原点とは

菅谷 伊佐央さん

株式会社菅谷工務店
代表取締役社長

香取市府馬。宿場町の面影が残る山裾の集落に、菅谷工務店はある。二代目の菅谷伊佐央さんは、大工だった父の作業場で木を刻む音を聞いて育った。掲げるのは、100年住み続けられる家づくり。しかしその歩みは、順風満帆なものではなかった。社会人1年目、初めて担当したお客様から受け取ったアンケート用紙には、裏面までびっしりと、不満を含む切実な声が書かれていた。菅谷さんは、その一枚を20年経った今も大切に保管している。なぜ、その紙を手放さないのか。なぜ、値段の高い国産材にすべてを切り替えたのか。なぜ、売上を伸ばすことよりも、遅くても長く続くことを選ぶのか。問いの答えをたどっていくと、木も、お金も、人の思いも、地域の中を巡り続けるひとつの循環が見えてきた。飾らない言葉で語られた、菅谷さんの原点と未来を届けたい。

山裾の作業場で──府馬に育った原点

── まずは、幼少期の菅谷さんについて教えてください。

香取市の府馬で生まれ育ちました。裏が山で、前が田んぼという場所です。昔は宿場町のように栄えた土地だったそうで、商店街があって、比較的人が集まる場所だったと聞いています。子どもの頃は森や田んぼでザリガニやカブトムシを捕まえたり、自転車で鬼ごっこをしたり。学校までは歩いて30分以上かかったので、毎日よく歩いて、よく走り回っていました。思い入れのある土地です。

── ご実家は工務店を営まれていたそうですね。

父が大工で、実家の作業場には材木が置いてあって、カンナをかけたり、ノミで加工したりする姿を日常的に見ていました。幼稚園や小学校の頃、親戚が集まる席で、おじちゃんたちに「大工になるのか?」と聞かれて、「なろうかな~」と答えていた記憶があります。結局大工にはならなかったのですが、心のこもった仕事をしたいという思いは、あの頃から芽生えていた気がします。

── 学生の頃から大工や建築の道を明確に持っていらっしゃったのでしょうか?

学生時代、特に中高はそんなに意識できていませんでしたよ。中学ではサッカー部に入り、ちょうどJリーグが開幕した頃で、盛り上がりの中でボールを追いかけている毎日。高校は佐原高校に進み、そこでもサッカー部に。夏の大会まで部活中心の毎日でしたから、どの道に進もう、そのために勉強を頑張ろう、というのは正直あまりなかったです。部活動に一緒に励んだ仲間たちと、今も付き合いの続く出会いになっているのは、この頃の財産です。

命の使い方──ふたつの原体験

── 建築の道を志したきっかけを教えてください。

進路を考えたとき、やはり建築を勉強したいと思い、建築学科のある大学に進みました。ただ、振り返ると大学時代にいちばん大きかったのは、勉強というよりも、母の縁で通うようになった新潟の山あいの集落での活動かもしれません。夏は草刈り、冬は雪像づくり。青春18きっぷを使って、千葉から5時間かけて電車で行き、駅からさらに2時間歩くような場所でした。夜は小さな小舎にみんなで集まって、40代、50代の先輩方が、いただいた命をどう使うのかが人生の生き様だ、という話をしてくれるんです。当時はよく分かりませんでしたが、自分のためだけに生きていては駄目だなという感覚は、あの頃に育ててもらったと思っています。人と出会うことで考え方の幅が広がるということも、あの場所が教えてくれました。

── 卒業後はハウスメーカーに就職されているのですね。

営業として、家を建てるお客様と直接向き合う仕事でした。忘れられないのが、1棟目のお客様のことです。引き渡しまでにいろいろな出来事が重なってしまい、引き渡し後にいただいたアンケート用紙には、裏面までびっしりと、切実な声が書かれていました。不満も含めて、です。一生のお金を払って家を建ててくださるお客様に、こんな思いをさせてしまった。その申し訳なさは、涙が出るほどでした。あのアンケートは、今も大切に保管しています。お客様に真に寄り添った家づくりを実現して、その先の暮らしの豊かさに繋がっていってほしい。私の原点は、あの一枚にあります。

── 新人として貢献できない、悔しく悲しい出来事ですね。そのお客様とはその後どうなったのですか?

先日、20年ぶりにお話しする機会がありました。住み替えも考えているので相談に乗ってくれませんかと、わざわざ訪ねてきてくださって。アンケートにも書いてくださっていたのですが、最後の担当者が私で良かったという言葉は今でも心に焼き付いています。時を経て、こうして会いに来てくださることは本当にありがたかったです。

木の背景を知って──循環の経営へ

── その後、家業に戻られたのですね。

父が築いてきた会社に、営業や設計、現場監督といった機能を少しずつ加えながら、自社の家づくりを広げていきました。最初の4、5年は自分で何役も担いましたが、父や社員大工、支えてくださるお客様がいたからこそ続けられた時期だったと思います。

── 国産材100%に切り替えられたとHPで拝見しました。

ウッドショックをきっかけに、材料について学び直しました。その中で、和歌山の伐採現場を訪ねる機会がありました。急な山肌にワイヤーを張り、命がけで木を切り出す方々の姿。そしてその木は、60年前に誰かが植えてくれたものなんです。家を建てている私たちが日本の木を使わなければ、誰が使うのか。そう感じて、国産材に100%切り替えました。値段は高くなりますが、なぜこの材料を使うのか、その理由を社員研修を通して学んでいます。お客様が出してくださったオーダーが山を潤し、山の方々の仕事に繋がり、また木が育っていく。家づくりは、そういう循環の中にあると思うんです。

──学生時代に見えた「命の使い方」とお客様からのアンケートで痛感した「家づくりの本質」改めて、経営で大切にされていることを教えてください。

会社の売上をどんどん伸ばしていく姿勢も大切だと思います。その姿は尊重しつつも、成長がゆっくりでも長く続く会社にしたい。家の仕事だけをやればいいのではなく、家の仕事とは地域に根付いたお困りごとの解決なのだと、最近つくづく思います。会社が残っても、地域がなくなってしまったら意味がありませんから。

100年の家には、100年の会社と地域がいる

── 循環、持続、共創。これらの想いを大切にしていらっしゃる様子が見えてきました。

私たちは、100年住み続けられる家づくりを掲げています。だとすれば、作り手である私たちが先になくなるわけにはいきません。100年以上続く会社にしなければ、お客様を守れないんです。だからこそ、大工さんや職人さんの育成をやりたい。志を同じくする方と連携しながら、マイスター高等学院という職人育成の場の開設を目標にしています。技術だけでなく、何のために働くのかという人生観も一緒に学べる場にしたいと思っています。

── 今後取り組みたいことを教えてください。

これまでのご縁や地域資源を活用した事業、例えば空き家を活用したゲストハウスの運営などに取り組んでいきたいです。そこから地域での場所が再興し、はたらく場所、集う空間が生まれていく。その循環が生まれるような取り組みを推進していこうと考えています。

── どんな仲間や、共創のパートナーと歩んでいきたいですか。

利他の精神のある方ですね。地域・人に向き合い日々かけまわっていると、人のことで頭がいっぱいになっていくんです。そのうち、自分の悩みも解決されている、みたいなことが起きるんですよね。今いるスタッフも、お客様との交流イベントや、これまでのお客様だけがログインできるコミュニティページの運営を、それぞれ楽しみながら自発的に動いてくれています。そういう仲間の輪を、少しずつ広げていけたらと思っています。地域の未来を作っていくことに共感してくださる方なら、社員としてはもちろん、地域の事業者さんや異業種の方との協業も大歓迎です。繋がりの中から新しい仕事が生まれる瞬間が、本当に嬉しいので。一緒に何かできそうだと感じてくださった方がいたら、気軽に声をかけていただけたら嬉しいです。

いつものでいい?──休日も、地元に還す

── 最後に、オフの過ごし方を教えてください。

休みが取れるとサウナに行きます。美人の湯空の湯あたりによく行きますね。お昼は地元のお店をぐるぐる回っていて、水郷のとりやさんの親子丼、広華さんやsaiさんの中華、すし処纏(まとい)さんのお寿司。いつも同じものを頼むので、いつものでいい?と声をかけてもらえるお店もあります。

── 地元のお店に良くいかれるのですね。

意識して、なるべく地元で使うようにしています。地元の経済に少しでも貢献できればいいな、と考えていることが多いかもしれません。大きなことではないですけれど、こういう小さな循環の積み重ねが、地域を残していくことに繋がると信じています。

(編集後記)

大切な鞄から取り出した一枚の紙切れ。それを開くと社会人一年生時代、一人目のお客様からの忘れられないメッセージがびっしりと書かれていた。その紙を見せてもらった私は自然と目頭が熱くなるのを感じた。同時に、菅谷さんの芯の強さと包容力、未来を見据える力の大きさを肌で触れた瞬間でもあった。

スマホ一つで情報が簡単に手に入る時代、身の回りには煌びやかなものや綺麗ごとがありふれるようになった。しかし、菅谷工務店”センターホーム”代表の菅谷さんの中心にあるのは信じる力と前に進む力が循環し、未来を切り開いていく魂なのだと感じる。取材時だけでなく、前後の連絡を通して一貫して誠実な菅谷さんの、センターホームの、扉を叩いてみてほしい。


【会社概要】

センターホーム

会社名: センターホーム 株式会社菅谷工務店
代表者: 代表取締役社長 菅谷 伊佐央
所在地: 〒289-0311 千葉県香取市八日市場1333
TEL / FAX: TEL : 0478-83-7111 / FAX : 0478-79-9222
営業時間: 8:30~17:00
公式HP: https://www.center-home.net/


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